タイらしい冷たいデザートを提供する処がナムケンサイ (น้ำแข็งไส) の店。ナムケン (น้ำแข็ง) は「氷」、サイ (ไส) は「かんななどで削る」の意味。ナムケンサイとは「かき氷」のことなのだ。ただし、日本のかき氷とは違い、好みのトッピングとシロップを組み合わせるのが基本。氷を食べるのではなく、氷で冷やされたトッピングとシロップを楽しむのである。夏場に食べるみつ豆のようなイメージ。日本の和のイメージがある甘味処のように、タイの昔ながらのデザートに氷を入れて冷たくして提供するのがナムケンサイの店、タイの甘味処なのだ。
以下の写真のように、いろいろなトッピングが用意されていればナムケンサイの店である。
以下の写真は、最近店舗数を増やしているチェンシムイー (เช็งซิมอี้) なる店のナムケンサイの様子。使う器の形状やサイズは店毎に違いがあるが、最近はこの写真のようにボール状にした氷を上に乗せるスタイルが多いようにも感じる。なお、かき氷ではなく小さく砕いた氷を使う店もある。かき氷だと氷が直ぐに溶けシロップが薄まるので、私は砕いた氷のスタイルの方が好きなのだ。 なお、かき氷を山のように入れ、カラフルなシロップとコンデンスミルクをたっぷりとかけるスタイルの店や屋台もある。
ここで、一般的なナムケンサイのシステムを簡単に説明する。
店の規模にもよるが、用意してあるトッピングは数種類から 20種類以上、合わせるシロップは中華風の龍眼汁、タイらしいココナッツミルク、フレッシュミルク、生姜汁、そして、赤色/青色/黃色の色付きシロップ、コンデンスミルクなどが考えられる。何が用意してあるかは店次第。好きなトッピング3〜4種以内とシロップの組み合わせで価格設定をしている店が多い。コーンのようなトッピングならスプーン1杯、ナツメの甘露煮ようなトッピングなら1〜2個のような感じである。仮に1種類で良いのでたくさん入れろと言えば、そのように対応してくれるだろう。
ところで、龍眼汁とココナッツミルクのどちらを選ぶかで、トッピングの選定に違いがでるのだ。生い立ち/歴史上の慣習や相性の話である。チェンシムイーのメニューを例にして説明してみる。チェンシムイーは、店側が決めたシロップとトッピングの組み合わせを [番号+名前] にして英語表記でメニュー化してあるのだ。最近このスタイルが増えているようだ。海外の観光客には嬉しいシステムだろう。
チェンシムイーのメニューやトッピングの種類に興味のある方は、以下のチェンシムイーの Web サイトを参照願う。
https://www.เช็งซิมอี๊เจ้าแรก.com/Menus
まずは、龍眼汁のトッピング ...
以下の写真は、タイ語表記でチェンシムイー (เช็งซิมอี้)、 英語表記で [ASSORTED BEANS IN LONGAN JUICE] のメニュー名の様子。龍眼汁は、タイ語でナームラムヤイ (น้ำลำไย) と言う。龍眼をシロップで煮出して作るのだ。
注目すべきは、龍眼やナツメの甘露煮。他にレンコンのシロップ煮、銀杏、クコの実、チャオクワイ、へーオなど中華色の強いトッピングが基本。タイらしい色鮮やかなトッピングやココナッツミルクで下処理するようなトッピングは基本的に入らない。なお、龍眼汁にいろいろなトッピングを入れたデザートは、 タイ語でタオトゥン (เต่าทึง) の方が通りが良い。タオトゥンとは潮州系のデザートである「豆汤」の潮州語の発音らしいが、今では完全にタイスタイルにアレンジされたデザートである。よって、メニューのチェンシムイーは、タオトゥンの一種に分類されるが、多分ヤム芋系の澱粉から作った団子状や麺状のトッピングが入ると名称をチェンシムイーと呼ぶことができるのだ。チェンシムイーとは、潮州系のデザートである「清心丸」を指すのである。店名としてのチェンシムイーは「清心丸」から来ているのだろう。器にも「清心丸」と漢字で書いてある。そして、メニューであるチェンシムイーには、団子状や麺状のトッピングが入っているのだ。
以下の写真もナムケンサイの屋台の様子だが、タオトゥン「豆汤」の漢字が確認できるだろう。龍眼汁を選択するとは、タオトゥンに氷を入れて冷たくして食べることなのだ。そのため、タオトゥンのトッピングになり得るモノが相性が良いと思われているのだ。
以下の写真は、タオトゥンのナムケンサイの引き売り屋台の様子。青い丸いクーラーボックスの中に氷が入っているのだ。タオトゥンのセットを売る屋台は多いが、氷を入れた冷たい状態のタオトゥンをその場で提供する屋台は稀なのである。
タオトゥン屋台については、以下も参照願う。
次に、ココナッツミルクのトッピング ...
以下の写真は、タイ語表記でルアムミット (รวมมิตร)、英語表記で [RUAMMIT] のメニュー名の様子。ルアムミットとは「色々な種類が混ざっている状態/ミックス」のこと。たくさんの種類のトッピングが少しづつ入っていることを意味しているのだ。ココナッツミルクは、タイ語でナムガティ (น้ำกะทิ) と言う。ココナッツミルクに砂糖を加えて作るのだ。
タイらしい赤いタプティムグロープ (ทับทิมกรอบ) や緑色のロートチョン (ลอดช่อง) は、ルアムミットからは外せないトッピングだろう。ルアムミットに入るトッピングは店により違いがあるが、同一店舗でも必ず同じとは限らないのがタイスタイル。
タイにはナムガティを使った伝統的なデザートが幾つもある。例えば、カボチャや豆類、芋類、バナナなどのゲーンブアット (แกงบวด) がある。ゲーンブアットとは「甘いココナッツミルクで煮たデザート」の総称である。ロートチョンナムガティやサリムナムガティのように甘いココナッツミルクのスープに入れて食べるデザートがある。 タオスワンやサークーピアック、カオニャオダムピアックのようなシロップ煮にして、ココナッツミルクのソースをかけて食べるデザートもある。このようにココナッツミルクのデザートの食材になり得るものがトッピングとして用意されている。生い立ち上の慣習から中華系の龍眼汁にナムガティ系トッピングが入ることは店側のパターン化メニューでは考え難いのである。
以下の写真もココナッツミルクのナムケンサイ。ココナッツミルクに茶色のパームシュガーを使っているのだ。茶色のココナッツミルクの店も多いのだ。
ココナッツミルクのデザートのトッピングについては、以下も参考にして欲しい。
その他のトッピング ...
ローイゲーオ (ลอยแก้ว) 系の食材もトッピングとして用意されている。ローイゲーオとは「シロップ水に、シロップ漬やシロップ煮のフルーツなどを浮かべたデザート」の総称である。ルークターンやルークチット、カヌンなどが考えられる。メロンやスイカ、キウイ、マンゴー、ドラゴンフルーツなどのフルーツ系を用意している場合もあるだろう。さらにカオトムナムウンの「三角ちまき」やタロイモの餡のプアッククワン (เผือกกวน) もある。
他にも、色付きのゼリーがあるが、ココナッツジュースで作ったゼリーが面白い。タイ語でウンマプラーオ (วุ้นมะพร้าว) と言う。このウンマプラーオや金時豆、はと麦などはタオトゥンに合わせることも多い。考えられるいろいろなトッピングが一堂に会しているのが、ナムケンサイの店なのだ。
さてさて ...
タイの食文化は、古くから潮州系中華の影響が深く、その慣習がタオトゥンを通してナムケンサイのトッピングにまで影響を及ぼしている話をしてみた。
いずれにしても、トッピングの選択は個人の好み。私はタオトゥンのトッピングであるナツメの甘露煮やレンコンのシロップ煮をココナッツミルクに合わせるのだ。もちろん、どちらも好きだからに決まっている。ナムケンサイの店は、街中、フードコート、ショッピングモールなどにあるし、デザートとしてナムケンサイを用意しているレストランもある。自分の好みのトッピングとシロップでナムケンサイを楽しむのが至福のとき ...
そうそう、山盛りにしたかき氷だが ...
最近は、アフターユー (After You) の KAKIGORI、洒落たデザートショップにはタイのフルーツを乗せた巨大フラッペもある。さらに、K国の氷菓子のピンスをマネたスタイルもあり、タイ語でビンスー (พิงซู/บิงซู) と呼ばれているのだ。もちろん、デザートショップやかき氷屋台毎に工夫を凝らしたかき氷もある。
こぼれ話
チェンシムイー (เช็งซิมอี้) は、多分ヤム芋系の澱粉から作った団子状や麺状のトッピングが入る龍眼汁のデザートだが、似たような龍眼汁のデザートにボキーヤ (โบ๊กเกี้ย/โบ๊กเกี๊ย) と呼ばれる海南系のデザートもあるのだ。ボキーヤには、米粉の澱粉から作った団子状や麺状のトッピングが入るのだ。ボキーヤとは中国語の「粿仔」を指すようだ。
ところで、タオトゥンにしろココナッツミルク系のデザートにしろ街中の屋台でテイクアウト。冷蔵庫で冷やしたり、氷を入れたりして自宅で楽しむのが庶民のスタイル。さらには、自分の好きなトッピングやフルーツを加えてグレードアップ。
そうそう、テイクアウトできるナムケンサイの店もあるのだ。氷無しでテイクアウト。